本当に地域の患者さんの要求にこたえられる医師を育てるために
~大阪民医連は、初期研修を「骨抜き」にせず、これまでの研修方式を踏襲・発展させます。
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2009年5月21日
大阪民医連医師委員会
医師委員長 大島民旗
臨床研修「見直し」は大問題!
2004年度より施行された新医師臨床研修制度が、来年度から改変されることになりました。2009年5月11日付の厚生労働省医政局長の通達でその内容が明らかにされていますが、大きな変更点は、①これまで必修であった外科、小児科、産婦人科、精神科の研修を「選択必修」とすることにより、実質これらの科のいくつかを「研修しない」で研修終了することを認めたこと、②募集定員の上限を設けることにより、年々研修医募集枠を抑制し、研修医が自由に研修先を選べない状況が生まれる、③これまで研修の「内容」で認めていた研修病院の資質を、「年間入院数3000人」などの数的なハードルを設けたため、研修病院としての評価が高くても管理型研修病院として継続できない状況が生まれたこと、など大きな矛盾をはらんでいます。こうした「見直し」が行われた背景は、新医師臨床研修制度開始をきっかけに、大学病院よりも市中の臨床研修病院で研修を選ぶ研修医が圧倒的に増えたことに対して、医師派遣機能を失い危機感を持った大学病院側が実質の研修を1年間に短縮することを強く要請したことがあります。
私たちは今回の研修制度の「見直し」がもともとの医師臨床研修制度の基本理念として掲げられている「将来専門とする分野にかかわらず、…(中略)…プライマリ・ケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身につける」条件を奪うものとして、パブリックコメントなどを通じて大きく反対の声を寄せました。
いい研修を行っていれば、「見直し」の必要はない
私たちは今回の省令改正に対して、以下の姿勢で研修を進めていきます。
①「地域の住民にとって期待される医師」、「地域に役立つ医師」養成を引き続き目指します
新医師臨床研修制度に掲げられている研修目標は、すべての臨床に携わる医師が身につけるべき必要最低限の力量としておおむね妥当なものと考えます。今日地域医療の崩壊が各地で問題になっています。その根本原因はいうまでもなく絶対的な医師不足にありますが、これまでの医師養成が専門医養成に偏重してきたことにも原因があります。小児をまったく診れない医師、精神的問題にはまったく対応できない医師、こうした日本独特の医師養成の弊害を解決し、一人の医師のパフォーマンスをもっと高めることが、当面の医療崩壊に対する手当として必須なのです。大阪民医連は新医師臨床研修制度のもと、単に見学だけで終わらないよう小児科、産婦人科、精神科を厚労省の定める最低必要な研修期間の1か月から、3か月、1.5か月を基本とし、3か月以上も可能としていました。
今回の見直しは、再度初期研修をせっかくのプライマリな臨床能力の獲得の機会から、以前のストレート研修に近い研修方式に戻すものですが、私たち大阪民医連は改めて「地域の患者の要求にこたえる、基本的臨床能力」獲得の期間として、初期研修を位置づけるものです。
また、大規模研修病院では研修しにくい地域の住民と距離の近い医療(医療懇談会での講師活動、訪問診療、街角健康チェックなど)活動を研修に生かすことを、引き続き進めていきます。
②研修の自由度を継続する
初期研修の必修化が選択必修になったことで、研修病院によっては実質研修ができる科とできない科(標榜はしていても、研修体制の整っていない診療科)が生まれることが懸念されます。大阪民医連は先に述べたすべての従来の基本科、必修科が初期研修終了の上で不可欠の考えから、引き続きすべての診療科の指導体制を整備し、研修医の希望によっては研修期間の延長を可能にします(たとえば小児科を6か月、産婦人科や精神科を3カ月など)。「研修しない自由」を求める研修医のニーズにはこたえられませんが、「より長く、充実した研修」を希望される方にはその環境を提供します。
③研修スタートは全員総合内科病棟で
大阪民医連は1998年以降、1年目の研修開始病棟を一か所に定めて研修を行っていました。これは医師としての研修スタート時は様々な環境の変化で最もストレスのかかる時期であること、メディカルインタビューや身体診察、カルテ記載やプレゼンテーションといった医師として基本となる診療能力の獲得は、特に充実した指導体制のもと安心して研修が行える必要があると考えているからです。
厚労省は今回の研修制度の「見直し」によって、研修開始科を将来希望する研修科から開始することを可能にしました。しかしそれによって期待していることは色んな科をローテーションしているうちに研修医が「心変わり」するのを避けたいという、医師養成の本質からはずれたものです。大阪民医連は1年目研修を始める耳原総合病院、西淀病院、コープおおさか病院いずれでも専門分化していない総合病棟に指導医を配置し、研修医同士・研修医指導医・多職種との良好なコミュニケーションの元初期研修をスムーズに進めてきたこれまでの成果を継続します。
④地域医療研修は経験豊富な診療所で
今回の研修制度の見直しでもう一つ変更されたのは、地域保健医療研修が地域医療研修と改められたことです。従来の保健所などの研修はどうしても見学的になることが指摘されており、昨今の医療崩壊の情勢の下診療所・小規模病院での外来や在宅医療の場を経験してもらうことが重要との視点からです。
私たちはこの方向性自体は評価します。しかし実態としてはそうした研修医を受け入れ、成人教育の視点に立って指導もできる診療所が少ないことが問題として挙げられます。大阪民医連は診療所研修を初期研修に位置づけることを1989年から必修とし、新臨床研修制度開始後もこれまで11か所の診療所で初期研修医を受け入れてきました。こうした実績は制度の見直しでもますます輝きを増すものと思われます。
制度の見直しにより、今後管理型研修病院は年間入院患者数3000人以上という新たなハードルを設けられることとなりました。現時点で管理型臨床研修病院である耳原総合病院、西淀病院ともこの患者数はクリアする見通しですが、私たちは入院患者数が多い(≒病床数が多い)ことが研修の質の担保になるものとは考えていません。小規模病院のほうが研修医の満足度、到達度(自己評価)が高いことは各種調査で周知のことです。
今後、医師臨床研修は残念ながらプライマリ・ケア能力を意識したものと、最初から専門医養成を目指したものに2極分化することになりそうです。将来的に専門医を目指すことと、初期研修で確かな総合的臨床能力を身につけることは分けて考えるべきですし、矛盾しないと考えます。私たちは、初期研修でこれまで進めてきた総合的診療能力の獲得を目指す初期研修の提供と、後期研修でのさらなる総合的診療能力もしくは総合的診療能力の土台の上に立った専門的診療能力の獲得を引き続き踏襲し、発展させていくことをお約束します。